2010-09-12

カポディモンテ美術館展




数日前のことですが、出先から足を伸ばして、久し振りに美術展に行ってまいりました。
[カポディモンテ美術館展 / 於・国立西洋美術館]

ナポリのカポディモンテ (山の上、の意) に1738年、ナポリ・ブルボン家のカルロ7世が母、エリザベッタ・ファルネーゼから受け継いだ美術品コレクションを展示するために建設した宮殿が、カポディモンテ美術館です。

ファルネーゼ家とブルボン家のコレクションを中核としたその国立カポディモンテ美術館から、パルミジャニーノの有名な作品が来日しました。


                         パルミジャニーノ
                     《貴婦人の肖像 (アンテア)》
                          1535 - 37年

愛玩用の貂(テン)を乗せて遊ばせる右肩を強調した、四分の三正面観のこの肖像画のモデルはアンテアと呼ばれ、貴族とも高級娼婦とも伝えられているそうですが、描かれた女性の大きく見開かれた両眼と繊細な表情の左手が遠くからでも目を引き、近付くに従って姿形全体の堂々とした重量感が迫って来て、いざ絵の前に立てば引き込まれるような拒絶されるような。

アンテアの衣装はたっぷりした衣襞の量感が美事で、渋めの色調が画面全体に落ち着きを与えておりますが、床に向かうプリーツの縦とガウンの横縞のバランスが絶妙~~また胸元の菱形模様とV字の切り込み+首飾りのラインが呼応して、シンプルなアクセサリーはモデルの美しさを引き立てるかのようです。

貂といえばレオナルドの 《白貂を抱く婦人 / チェチリア・ガレラーニ》 を思い出しますが、ご主人様の肩から下方に長く体を伸ばし、手袋の指に巻かれた鎖に近付く本図の貂は、穏やかな顔で抱かれるレオナルドの貂とは違って牙を剥き、アンテアの表情同様、一筋縄ではいかぬ何かを感じさせます。

作者のパルミジャニーノ (Parmigianino / 1503年 - 1540年) は首の長い優美な聖母像などで知られるイタリア、マニエリスム初期の画家ですが、ファルネーゼ家がパルマ (生ハムやパルメザンチーズで有名な美食の地) を統治していたことから、パルマの画家=パルミジャニーノ (パルマっ子の意、本名 Girolamo Francesco Maria Mazzola) の絵もコレクションの対象となっていたわけです。

パルミジャニーノは37歳で赤痢で夭逝しておりますが、晩年は錬金術に没頭して美しい容貌も一変したとか、下は20歳の頃の 《凸面鏡の中の自画像》 ですが、絵も画家も魅力的で好きな画家の一人、この度 《アンテア》 を見ることが出来たのはとても嬉しいことでした。



そういえば長年思っていることなのですが、37歳くらいで生涯を終える画家、多いですね、ゴッホしかり、あとラファエッロとかカラヴァッジョ & more... 天才には中年の坂が越えられない何かがあるのでしょうか。

カポディモンテ美術館展での作品を他にいくつか。



                     ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
                       《マグダラのマリア》
                          1567年

ティツイアーノが描いたマグダラのマリア数点のうちの1点で、対抗宗教改革期を反映して着衣で描かれ、罪人を表す縞柄の衣を纏った悔恨するマグダレーナも、暗い洞窟の背景に覗く空のヴェネチアの青もどれも美しいのですが、全体に温和し目の印象で、以前見た、燃えるような金髪で胸を覆ったヌードヴァージョンの方がやはりより魅力的、と思いました。



                     アルテミジア・ジェンティレスキ
                      《ユディトとホロフェルネス》
                         1612 - 13年

アッシリアの敵将ホロフェルネスをユダヤの女丈夫ユディトが酒宴で籠絡し、侍女に手伝わせて寝首を掻くまさにその瞬間を、カラヴァッジョ派のナポリ・バロックの女流画家が明暗法と大胆な構図で描いております (別ヴァージョンアリ)。

画家アルテミジアは先輩画家に陵辱されたトラウマをこの絵で開放しているかのようだ、と解説されており、ホロフェルネスの顔は一説にはその画家の顔でもあるとか、でもそういうエピソードを抜きにしても本図の迫力や臨場感は十分印象に残り、衣装の赤と青の対照も効果的です。



                       アンニーバレ・カラッチ
                       《リナルドとアルミーダ》
                         1601 - 02年

ファルネーゼ家が庇護したバロック初期のカラッチ一族のメイン画家=アンニーバレの作品ですが、敵将リナルドがアルミーダの魔法で恋に溺れる、妖しく耽美的な画面もさることながら、この絵の場合、作品のタイトルに反応してしまった、の巻。

何故ならこの絵と同じく、タッソによる11世紀のエルサレムを舞台にした叙事詩 『解放されたエルサレム』 に想を得た、ヘンデルのオペラ=「リナルド」の中の有名なアリア、<私を泣かせてください>が大好きな曲だからです。

尚、本展のレクチャーコンサートでは、スクリーンにアンニーバレのこの絵を映しながら、カウンターテナー歌手の弥勒忠史氏 (イタリアで活躍中だそうです) による<私を泣かせてください>をライブで聴くことができたそうで、残念なり~~事前調査の必要性を感じました。

カポディモンテ美術館展は予想より小規模の美術展でしたが、久し振りに国立西洋美術館の前庭をぐるりと巡ってみたり、、、、そして上野に行くと必ず立ち寄る甘味屋さんに行くと御代金が後払い制に変わっていたりもして、国立西洋美術館と共に此処でも久し振り感を文字通り味わってまいりました(氷宇治)。






附・・・いろいろあって迷いましたが、映画 《カストラート》 より・・・私を泣かせてください。





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