2010-12-05

源氏物語絵巻=鈴虫


11月も終わる頃、会期末近くの五島美術館の開館五十周年記念 <国宝源氏物語絵巻特別展>に行ってまいりました。


この特別展では源氏五十四帖のうちの約四分の一に相当する、伝存十四帖・四巻分の絵が全て展示されるということで(約四分の三は徳川美術館蔵、四分の一が五島美術館蔵)、久し振りに美術館入場のために90分並びました。→☆

順番を待つロビー通路の両側には絵巻の拡大写真パネルや解説文が掲示されており、待つ間にも作品についての予備知識が得られて、それなりに有効な時間でした。

《源氏物語絵巻》 は 『源氏物語』 が書かれた約百五十年後の十二世紀前半、宮廷を中心として製作されたと考えられる絵巻物で(保存のため現在は一場面ずつ切り離されております)、展示は右から 「詞書」「絵」「平成復元模写」の順に並べられて、手許のパンフレットの「釈文」や「略図」と比べながら拝見してゆきますが、まずは華麗な料紙に書写された、描かれた物語に対応する 「詞書」 の能書による墨の濃淡の美しさに、魅入られます。

絵は、屋根を取り除いて斜め上から屋内を覗き込む 「吹き抜け屋台」 の様式で描かれておりますが、その右上からの独特の視点は物語が繰り広げられている舞台を俯瞰しているようでもあり、西洋絵画にはあまり見られない面白い構図と言えます。

人物の面貌は「引目鉤鼻」の表現法によっており、一見したところ皆同じような顔に見えますが、よく見てゆくと顔の輪郭や目鼻の位置、形に微妙なニュアンスが加えられていることに気付き、描かれている人物の心の様を感じ取ることができます。

以下、《源氏物語絵巻・第三十八帖 鈴虫 二》 ですが、二千円札裏面の図柄で有名デス。

詞書の書風は当時の新旧の書の様式が混在、五種類に分類されるそうで、<鈴虫 二>は下部に剥落がみとめられますが、十一世紀の優美な連綿体で書き綴られております。


画面は斜めに大胆に区切った動きのある線が印象的ですが、中央の光源氏が凭れる太い垂直の柱が画面を安定させ、前景と後景を区切るような繋ぐような、見事な構図だと思います。


この画面は 「冷泉院(光源氏と継母藤壺中宮の不義の子/三十二歳)邸において、満月を眺めながら、公達たちが音楽を奏で、光源氏(五十歳)と冷泉院が対座している」 絵ですが、『源氏物語』の<鈴虫>をそのまま再現したのではなく、別の帖の情景も組み込まれていると解説されております。

即ち冷泉院邸に参上する途中に公達たちが月を愛でながら笛などで音楽を奏でる状況と、源氏と冷泉院が対面する冷泉院邸での情景を同画面に構成し、また第三十七帖<横笛>における 「柏木遺愛の笛を贈られた夕霧(光源氏の長男)が、その笛を奏でていると柏木の亡霊が現れる」 という内容も引き受けていて、従って笛を吹く人物は夕霧であるとされております。

《源氏物語絵巻》 製作プロジェクト(中心は源有仁)は、場面によっては原作 『源氏物語』 のある部分をドッキングさせたりクローズアップしたり、絵巻独自の解釈や工夫を加えている、と聞いたことがありますが、それに該当する絵であるかと思います。


平成復元模写(加藤純子氏筆)↓ですが、今は剥落している画面右上に群青の夜空と銀色の満月が再現されており、往時の色彩や細部を偲ぶことができます。


上左から時計回りに、<鈴虫 一>に添えられた詞書・二千円札裏面の冷泉院と光源氏+<鈴虫 一>の詞書・二千円札裏面の紫式部・<鈴虫 二>に描かれた冷泉院と光源氏。


以上、図録梗概より~八月十五日夜、源氏は女三宮を訪れ、鈴虫の音を鑑賞しながら和歌を贈答し、琴を弾いた。そこへ、蛍兵部卿宮(光源氏の異母弟)や夕霧が訪れて管弦の宴となる。さらにその最中に、冷泉院からの使いがあり、源氏は夕霧たちを引き連れ参上、詩歌管弦の宴が催され、冷泉院は、源氏の訪れを喜び迎えた。~

ちなみに 「鈴虫」 は今の松虫のことだそうで、平安時代には鈴虫と松虫は現在と名称が入れ違っていたという説もあるが確証はない、ということですが、いずれ図鑑で鈴虫と松虫の相違を確かめたいと思います。

(図鑑で調べるまでもありませんでした、詳しく有難う御座居ます→☆)。




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