2011-02-03
小谷元彦展=幽体の知覚
<小谷元彦展 幽体の知覚>に行ってまいりました(於・森美術館)→☆
六本木ヒルズ・53階の森美術館に行くのは久し振りでしたが、現代美術の展示空間として好きな場所で、平日の夜に入場者が少なくなかったのは嬉しいことでした。
小谷元彦(Odani Motohiko 1972年生)氏については初期の頃の作品で知り、好きな現代彫刻作家に数えておりましたが、この度の展覧会では初期作品から最新作まで10年以上に亘って発表された作品が展示されているということで、楽しみに出掛けました。
作品は手法も素材もサイズも多様で、作品の美しさとクオリティの高さ、完成度に驚きました。
<展覧会フライヤーより>
【~小谷はしばしば、痛みや恐怖などの身体感覚や精神状態をテーマに、見る者の潜在意識を刺激するような作品を制作します。毛髪を編んだドレスや拘束具を着けた動物、異形の少女、屍のような武者の騎馬像など、一つの解釈に帰着しえない多層的なイメージは、美と醜、生と死、聖と俗の境界線上で妖しい魅力を放ちます。
彫刻というメディアのもつ性格に対して鋭敏な意識をもつ小谷は、彫刻特有の量感や物質性に抗う(あるいは逆手にとる)かのように、実態のない存在や形にできない現象、すなわち「幽体」(ファントム)をとらえ、その視覚化を試みてきたといえます。従来の彫刻の概念を超えて、存在のあり方をあらゆる方向から捉えて形にしようとする小谷の作品を通して、美術表現の新たな魅力と可能性に迫ります。】
と文章で読むとちょっと難しくエキセントリックに感じますが、作品はいずれもスッキリと垢抜けており、また展示空間の空気が凛としていて、どれも程良さ(としか言いようがないのですが)をわきまえた諸作品に、小谷氏のバランス感覚、そして衒いのなさを感じました。
<作品>
《Double Edged of Thought(Dress 02)1997》
細く三つ編みにした長い髪を寄り合わせてドレスにした初期の作品で、黒髪に混ざる茶色の髪により凹凸感が浮かび上がり、裾の部分の髪の毛のフリンジもキレイですが、ビョーク(→☆)が欲しがったけれどサイズが合わなく実現しなかった、というエピソードを聞いたことがあります=かなりタテ長。
カタログ解説によると、京都生まれの小谷氏が幼少の頃に見た、東本願寺の毛綱の心象が下敷きとなっているとのことです。
《Phantom-Limb 1997》
エピソード関連ですが、上↑の作品の制作にあたって小谷氏は、当時9歳だった美少女を街でハントしてモデルにお願いしたとか・・・小谷氏はその後2003年にはヴェネチアービエンナーレに日本を代表する作家として選ばれ、彫刻という表現の脱構築を試みて今日に至っているわけですが、モデルのお嬢さんもきっと素敵な女性に成長されていることでしょう。
《Arabesque woman with a heart 2009》
具象彫刻ならではの美しさが感じられる魅力的な裸婦全身像でしたが、エンボス加工の上に紅く着色した唐草模様が全身に施され(印田のようでも)、右手に心臓を持ち、百合の髪飾りを挿して、少し腰をひねって立つ姿は仏像を思わせるような、静かな佇まいでした。
心臓(聖心)+百合、キリスト教的な立像でもあるのかな。
《Solange 2003》
小谷氏は<純潔>の象徴である百合の花をいくつかの作品に出現させており、ピアノ線で花びらを引き広げて造形されたこの百合は現実にはない姿で、ひたすら美、でしたが、無理矢理開花させられて苦しそうでも。
《Inferno 2008-10》
体感型の映像彫刻ともいうべきインスタレーションで、観者は靴を脱いで8角形の構築物に入って観て、瀧を感じてくる、というスタイルで、作品は結構なスペースでした。
内部は上下が鏡面で、不思議な音響と共に瀧の映像がかなりのスピートで上下することで、滝壺の中にいるような瀧に酔うような、現代美術ならではの珍しい体験のできる、見事な作品でした。
《SP4 the specter―What wanderers around in every mind 2009》
カタログ解説では日本彫刻史における騎馬像との関連が考察されておりましたが、西欧の死神のような人が騎乗したこの大騎馬像、一見して即、デューラーの版画↓を思い出しました。
《Ruffle(Dress 04) 2009-10》
カタログ解説の一部より(左の作品)~大海原にぽつんと浮かぶいかだの空撮映像を見たときに感じた恐怖が、作品の着想となっている。この美しくも残酷な拷問機具は、さざ波(ラッフル)をたてながら永遠に海面をただよいつづける~
よく磨かれた美しい湾曲板で作られた拷問機具はスカート様で、ウエスト部分に装着されて海に投げ出されるという使用法にて、海水の冷たさが伝わってくるような、本展で最も恐い作品。
《Hollow series 2009-》
浮遊するレースのような作品で飾られた空間は実体があるようなないような、不思議な感覚を覚えますが、FRPを素材とした小谷氏の最近作の世界を満喫することができました。
その他、小谷氏が自分の強みと語る木彫作品や、西洋の古典作品をモチーフとしたものや、《New Born series》 と題する動物の骨をモデルにした白い繊細な作品群等々、またいくつかの作品に付随した音響の効果も楽しめ、小谷氏自身が語り・創る映像も見ることができる、ヴァリエーションに富んだ、見応えのある展覧会でした。
小谷元彦氏と、初期の作品 《 ERECTRO(Bambi)》 (雑誌 『ART iT』 +絵葉書)
会場を出た後の爽快感・・・疲れない展覧会です、オススメ致します(~2/27)。
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