2010-10-11
ザ・コレクション・ヴィンタートゥール
数日前、スイス、ヴィンタートゥール美術館からの日本初公開作品、90点を見てまいりました。
展覧会場の世田谷美術館は緑に囲まれ、門をくぐればどこからともなく金木犀の香りが漂ってきて、この立派な区立美術館のもうひとつの魅力を早速体感することができました。
暑くもなく寒くもない好天のこの日、美術館のお庭や隣接の公園で憩う人も少なくありません。
スイスの小都市ヴィンタートゥールはチューリッヒにほど近く、資産家たちの尽力が成した文化・芸術都市ですが、著名な美術史家ハインリッヒ・ヴェルフリンの生地であること、そして当地の優れた美術収集家オスカー・ラインハルトの美術館<Sammlung Oskar Reinhart 'Am Römerholz'>に、ひと頃執着していた素描が収蔵されていることから、ヴィンタートゥールという地名は私には特別の響きがありました。
そんなことから本展にも足が向き、普段あまり見られないような珍しい作品をいくつも見ることができたり、思いの外楽しい時間を過ごすことができました。
展覧会は8つのセクションで構成されておりましたが、数点について感想を展示順に。
第1章 フランス近代Ⅰ:ドラクロワから印象派まで
第2章 フランス近代Ⅱ:印象派以後の時代
第3章 ドイツとスイスの近代絵画
第4章 ナビ派から20世紀へ
第5章 ヴァロットンとスイスの具象絵画
第6章 20世紀Ⅰ:表現主義的傾向
第7章 20世紀Ⅱ:キュビスムから抽象へ
第8章 20世紀Ⅲ:素朴派から新たなリアリズムへ
第2章
フィンセント・ファン・ゴッホ
《郵便配達人 ジョゼフ・ルーラン》
1888年
ゴッホ死の2年前の作品ですが、風変わりで人と交わることがあまり上手でなかったゴッホが、何度かモデルを頼んだルーラン夫妻とは、きっと温かな優しい人たちだったのでしょう。
実際の作品はもっとずっと原色に近く色鮮やかで、強烈な青と黄色の補色の関係が南国アルルの明るい陽光を感じさせ、緑色の力強いタッチの影にもそれが表れております。ゴッホの厚塗りのマチエールを目にするといつも、弟テオが一生懸命絵の具 (代) を送り続けた一連のエピソードが思い出されます。
オディロン・ルドン
《アルザス、または読書する修道僧》
1914年頃
女性にも見えそうなこの修道僧が読む本のタイトルが<アルザス alsace>であることから、フランス北東部・アルザス地方に関係する思いが込められた絵であると解釈されている作品です。普仏戦争の結果ドイツ領となり、第一次大戦ではフランス侵攻のためのルートにもなっていたアルザス地方(現フランス領)ですが、ルドンの息子も第一次大戦に出征しているそうです。
尚、上記ヴィンタートゥール、オスカー・ラインハルトの美術館収蔵のひと頃執着した素描とは、現在もアルザス地方の美術館に収蔵される16世紀の祭壇画の下絵のことで、そういう意味でも 《アルザス》 は自分的にちょっと気になる作品となりました。同時出展の花の絵もルドンのいつもの感じで美しかったです。
メダルド・ロッソ
《アンリ・ルアール》
1890年
本展の一番の収穫がロッソのこのブロンズ作品。ロッソといえば石膏に蝋やワックスをかけて、それが流れ落ちる不定形な、ときには未完成作のような形態が特徴で、小さめの塊状の作品が多いことから、本作のような高さが1㍍近くあるブロンズ作品を珍しく思いました。
イタリア、トリノ生まれのロッソは反アカデミズムの彫刻家としてフランスで活動、本作のモデルのルアール氏は画家・実業家にしてロッソのパトロンとして彼を見出した人物だそうで、背面のヴォリュームが排除された、湾曲した薄い一枚板状のルアール氏は、繊細な感性を持ち合わせた人のように見受けられました。
表面に光の振動を取り込むことによって、彫刻の物質性を解消することが試みられている、との解説ですが、実際の作品は凹凸が写真よりデリケートな感じです。
第3章
フェルディナンド・ホードラー
《自画像》
1916年
第3章と第5章はヴィンタートゥル美術館ならではのスイスの作家の作品が紹介されており、代表作家ホードラーの自画像に出会えたのは嬉しいことでした (3点出展)。死の2年前に描かれたそうで、額の特徴的な皺がスイスの山岳地帯のようだ、との解説がありましたが、ホードラーの絵画に多用されるブルーを基調とした、黒の輪郭線が効果的な存在感のある自画像です。
ジョヴァンニ・ジャコメッティ
《アネッタ》 《自画像》
1911年 1909/10年
有名なアルベルト・ジャコメッティの父、ジョヴァンニによる油彩画2点ですが、アネッタとはジョヴァンニ夫人の名前、つまりアルベルトの御両親の姿を捉えた肖像ということになり、興味深く思いました。明るく穏やかな画面からは二人のお人柄が伝わってくるようで、気持ちの良い作品です。解説によると夫人の視線の先にはアルベルトが居るそうで、御子息アルベルトの彫刻3点・油彩画1点も展示されておりましたが、この度は珍しい父上の作品を。
第5章
フェリックス・ヴァロットン
《5人の画家》
1902-03年
この集団肖像画は解説によるとナビ派の画家たちだそうで、左端に座る人はピエール・ボナール、その右で手を組む人はエドゥアール・ヴュイヤール、そして左奥に立つのがヴァロットン自身とのことです。暗い背景に貼り付けたようなそれぞれの人物の関わり合いは薄く、一瞬を切り取ったような硬直したようなポーズが奇妙な空間を作っていて面白いです。中央の二人に光が当てられている分、後ろに立つ作者は傍観者、あるいは見張り番のようにみえる不思議な作品で
印象に残りました(ヴァロットン5点展示)。
第6章
オスカー・ココシュカ
《アヴィニョン》
1925年
ココシュカはオーストリア近代絵画の代表作家で、第二次大戦後はスイスに定住、後進の育成にあたりました。ココシュカやティントレットなど、早描きの画家の絵は勢いがあって好きですので、ちょっと嬉しかった1枚です。西洋絵画早描き御三家のあと一人を今どうしても思い出せないのが残念★ ←思い出しました!フランス・ハルスでした(10/12 8:07)。
本展は章立てからわかるように、広範囲での作品展示が特徴の一つかと思いますが、その中で自分の部屋に飾りたいような☆素敵な絵☆と思ったマックス・ベックマンの 《ストレリチアと黄色いランのある静物》・・・画像を探し出せなかったのが少々心残りで、本展絵葉書にも含まれておりませんでした・絵葉書向きなのに。
世田谷美術館の構内はきれいに整備されておりますが、こんな風にワイルドな部分もあって、こうした風情も良いものだな、と思いました。
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